マーケティングの本質と上流工程の重要性について語っていただいた前編に続き、後編では、同社の独自の人材育成システムや、高橋氏が考える「優秀なマーケター」の条件、そして若手マーケターへのアドバイスまで、実践的な内容に踏み込んでいきます。
「自分ごと」として理解する ― 優秀なマーケターに不可欠な共感力
——高橋さんが考える「優秀なマーケター」像を教えていただけますか?
基本的なことですが、「消費者の目線を忘れない」人だと思います。マーケティングはお客様の心を動かし、商品を購入していただくためのもので、買い手の視点で物事を捉えるのが大切です。しかし、仕事として扱っている商品にずっと向き合ってやっていると、お客様よりも自分が勝手にこの商品に詳しくなっていて、勝手にそのお客様とは違う良さ、お客様が感じているところとは違う良さを見出していってしまって、どんどんお客様と目線がずれていってしまうんです。
また自分がターゲットじゃない商品に対して、その商品の消費者と全く同じ目線を持てるというのも非常に大切です。
例えば、弊社の商品に「カイテキオリゴ」という便秘改善の成分を含む商品がありますが、自分は便秘じゃないから便秘で悩む人の気持ちは分からないとします。その時に「便秘の人って多分こんな感じなんじゃないか」「これを飲んだら便秘治りますよ」という程度の解像度ではまだ足りないんですよね。
「便秘の方って実際どんなことに悩んでいるのかな?」「カイテキオリゴという商品を使って便通改善した方はどういう気持ちになったのだろう?」「なぜこの商品を選んでいただけたのだろう?」というようなことを徹底的に理解していって、自分がその悩みを持っている場合と完全に同じ状態になれるかがすごく重要だと思います。
自分に同じ悩みがないなら、悩んでいる人に直接話を聞くのがいいですね。ただ、それは結構泥臭い作業なので、みんなあんまりやりたがらないんですよ(苦笑)。ただ、大きい結果を出すマーケターは漏れなく、その泥臭い作業を丁寧にやっているように思います。
——高橋さんはどのように実践されていますか?
結構色々な聞き方をしていますよ。マンツーマンでお話を聞かせていただくこともありますし、全く知らない人に聞くこともあります。普通にご飯を食べに入った飲食店とか、タクシー乗った時の運転手さんとか(笑)。
弊社の商品は、私から見て上の年代の方をターゲットにした商品が多いので、身近に聞ける人がいない場合はそういう方法で聞いてみます。世の中のサービスや商品は、基本的に自分がターゲットじゃないものが多いと思うんですよ。だからこそ、この商品を手に取る人の気持ちが自分ごととしてわかるかどうかというのは、マーケティングでは本当に重要だと思います。
——非常に共感します。いかに消費者の目線に寄り添えるかというのは、本当に大切ですよね。
あとは、論理的な話と感情的な話の行き来ができるというのも優秀なマーケターのポイントだと思います。ターゲット選定や市場分析、USPの選定などは合理的に数字とロジックに基づいて考える必要があり、感覚的に進めてはいけません。一方で、その設計に基づいて作成する広告クリエイティブについては感覚的な要素が必要です。
私たちも広告を作る際、ターゲットに響く要素を抽出し、それに基づいた広告を作っています。この作業には自分のインサイトを深く分析する力が必要で、その解像度が高いことが大切です。単に「赤いから目に入った」ではなく、「どのような状態で画面を見ているユーザーがどのような配信面の中でどのような赤が目に入ってきたから見たのか」と深掘りしていく感覚です。これは誰でもできることですが、結果を出す人はこれを自然に実践していると思います。
マーケターの成長に必要な2つの視点 ― スキルと上流工程への関与
——最後に、マーケティング職を目指している方や、すでにマーケティングの仕事をしているけれど伸び悩んでいる方々にメッセージをお願いできますか?
まず、マーケティングは本当に「面白い仕事」だと伝えたいです。特にウェブマーケティングは「ゲーム感覚」で取り組める部分があり、のめり込めると結果も出やすいですし、仕事から得られる幸福度も高いです。事業会社で働く場合、自社の商品をお客様に届け、嬉しいお声を直接聞けるという点でとてもやりがいがあります。そういう意味でも、マーケティングの世界に飛び込んでいただきたいなと思います。
既にマーケティングの仕事で伸び悩んでいる方には、経験則でいえば大きく2パターンに分かれる気がします。1つはシンプルにスキルの問題、もう1つはマーケティングの上流工程に関われないことによるジレンマです。特に後者は自分自身では解消が難しいので厄介ですよね。良い商品かどうかわからないまま小手先のテクニックに頼りがちになります。しかし、本当に大きな成果を出すには、もっと上流の「どんなお客様にどんな価値を伝えるか」といった部分に焦点を当てることが必要です。
もし上流工程に関われないことに悩んでいるなら、思い切って環境を変えるのも一つの手だと思いますよ。そうした制約から解放される環境を選ぶことが、成長に繋がるかもしれません。そのような方は、ぜひ北の達人コーポレーションに来ていただき、心行くまで上流から下流まで一緒に考え抜きましょう(笑)。
「自分がターゲットではない商品でも、その商品を手に取る人の気持ちが自分ごととしてわかるか」―高橋氏の言葉は、マーケティングの本質を突いています。社内研修から日々の業務まで、顧客視点を徹底的に追求する同社の姿勢は、マーケティング組織のあるべき姿を示唆しています。特に印象的だったのは、「なぜ自分はこの商品を選んだのか」を常に意識する習慣づけの重要性。マーケターとして活躍し成長したい人にとって、この視点は新たな気づきとなるはずです。
株式会社 北の達人コーポレーション
- HP:https://www.kitanotatsujin.com/
- 美容マイクロニードルパッチの「ヒアロディープパッチ」や、便秘の改善を助ける「カイテキオリゴ」などの人気商品を取り扱う自社ブランド「北の快適工房」を中心としたD2C事業を展開。