新卒入社からわずか3年で管理職に抜擢され、70人規模のマーケティングチームを率いる北の達人コーポレーション・高橋一雄氏。「お客様の気持ちを自分ごととして理解することが重要」と、ターゲットの目線で徹底的に考え抜くことの大切さを説く高橋氏に、マーケティングの本質と、成果を出すために必要な考え方について語っていただきました。
——新卒で北の達人コーポレーションに入社されてからこれまでの、キャリアのハイライトをお聞きかせいただけますか?
2020年に新卒で入社し、今年で5年目になります。現在は、WEBマーケティング部の統括マネージャーというポジションで、マーケティング部門全体を見ています。
入社後、一番初めに配属されたのは広告運用チームだったのですが、弊社は代理店に委託せずほとんどをインハウスで運用しているので、GoogleやYahoo!の運用広告の管理画面を直接触っているような部署でした。その後、入社2年目で全社MVPを受賞し4年目の段階でマネージャー、いわゆる管理職になりました。
——かなり早い昇進ですよね。現在マネージメントしているチームには、何人ぐらいメンバーがいらっしゃるのですか?
部署全体で100人強ぐらいです。広告のデザインチームと、その広告を運用するマーケティングチームの大きく2つのチームで構成されていて、僕はマーケティングチームを中心に見ています。
——それだけ大きなチームということは、代理店には委託せずあくまで自社運用にこだわるからですよね。そのこだわりの理由は何なのでしょう?
シンプルに「自分たちで直接やるのが一番成果がいいから」というのが理由です。私たちはD2Cという形で、商品の開発から販売までを一貫してやっているので、自社商品のことは自分たちが一番理解していますし、お客様のことも一番理解していますからね。
インターンシップで知った、ウェブマーケティングの面白さ
——お話を少しだけご経歴に戻しますが、北の達人コーポレーションに入社される前のお話をもう少し詳しくお聞かせください。大学時代は理工学系の学部だったそうですが、ウェブマーケティング業界での就職を目指して就職活動されていたのですか?
実は、特定の業界や職種を軸にしていたわけではありませんでした。中学時代には空手の全国大会で優勝するなど、スポーツに打ち込んでいて「ハイレベルな環境で仕事をしたい」という思いがありました。そのため、「切磋琢磨できる仲間がいるか」「会社として高い志があるか」といった観点で企業を選んでいました。
——働く環境を重視されていたんですね。
そうです。加えて、思考することが好きだったので「頭を使う仕事がしたい」とも思っていました。自分の仕事の価値が実感できる仕事が理想でしたね。
——マーケティングに興味を持ったきっかけは何だったのですか?
大学時代、弊社のサマーインターンシップに参加したことです。実際の商品の広告を作って、Facebook広告を出稿し、結果を見るという実践的な経験ができたのが大きなポイントでした。「どう訴求すれば売れるか?」を考え、結果がすぐに数字で見える点が非常に面白かったんです。そのスピード感と実践経験がマーケティングに興味を持つきっかけとなりました。
——マーケティングの仕事をやっていて良かったなと思うのはどんなときか、具体的なエピソードも併せて教えていただけませんか?
弊社の商品は、消費者の悩みを解消する商品が多いのですが、自分たちが作った広告から商品を購入してくださった方の声を直接聞けることが、この仕事をしていてよかったなと思う瞬間ですね。
「何十年と悩んでいたことが、北の快適工房でこの商品に出会って改善されました」といった具合に、弊社の商品でお客様の生活の質が上がったというお客様の声が直接聞けると、お客様にきちんと私たちの商品の価値が届いているんだなというのを実感できますし、意味のある仕事をできていると実感できます。
共通概念を共有するための社内研修システムとその効果
——現在の業務は、マーケティング施策としてはWeb広告が大半を占めていると思うのですが、顧客のペルソナ作成や競合分析、市場分析など、マーケティングの上流工程のフレームワークはどのように勉強されたのですか?
前提として私たちは、WEB広告作成と上流工程のターゲット・USP設計は完全にセットで捉えています。その中で、始めは研修や書籍等を通じて体系化された社内ノウハウをインプットしました。そして1つ1つのWEB広告作成において、どういうターゲットに向けてどのようなUSPを押し出す設計意図なのかを徹底して考えてアウトプットすることで習得していきました。
また私たちは事業会社なので、単にWEB広告を作成・運用するだけでなく「商品を作る」というマーケティングの最も上流に当たる工程に携わっています。この点も、汎用的なマーケティングのフレームワーク習得に繋がっていると思います。
——単に概念として理解するだけでなく、日々の業務で徹底的に実行している点が素晴らしいですね。ウェブマーケティングでは、広告の「運用者」になりがちな人も多いですが、分析から施策の実行、PDCAサイクルを自然に回しているのが印象的です。
おっしゃる通り、WEB広告の世界ではテクニカルな手法が注目される事が多いです。しかし私たちは上流の設計をしっかりと行って「コンセプト勝ち」することが大切と考えています。ここでいう「コンセプト」=「誰に」×「何を」と定義しています。上流を正しく設計せずに表現にだけにこだわっても、本質的にお客様の心を大きく動かせることは少ないです。
またどんなWEB広告は必ず見飽きられて疲弊します。その際に、私たちはWEB広告の表現が疲弊した際にはコンセプトに立ち返り、別表現を検討します。また特定のコンセプトに対する表現が枯渇してきた場合や市場環境が変わった場合にはコンセプト自体を変更します。
このようにレイヤーを意識して上流と下流を行き来しながら改善を繰り返すことで弊社はロングラン商品を生み出すのに成功しています。
上流に立ち戻り、USPを見直すことで実現した「ヒアロディープパッチ」のロングランヒット
——上流で「コンセプト勝ち」することの重要性、非常に共感します。末端であれこれやっても、疲弊だけがどんどん進んでしまって前向きなものが何も出てこないですよね。 これは「ヒアロディープパッチ」の訴求をお客様の声を元に大きく変えられた、ということに共通していますか?
そうです。弊社の「ヒアロディープパッチ」は、目の下やほうれい線に貼ると、針状に形成された濃厚ヒアルロン酸と美容成分が角質内で溶けてしっかり浸透させることができる商品ですが、 私たちが「ヒアロディープパッチ」を販売し始めたときは、競合商品はまだそこまで多くなくて、私たちがパイオニア的な存在でした。
発売当初は「マイクロニードル」という形状や特徴が新鮮で受け入れられていましたが、現在ではドラッグストアにも競合商品が並んでおり、「刺さって浸透する」というUSPだけではターゲットの反応を得にくくなりました。そこで、競合が増えた今、私たちが打ち出せる新しいUSPは何かを考え直してみたんです。
その結果、弊社はマイクロニードルのパイオニアとして、現在ではマイクロニードル市場で5年連続世界一の売り上げを持っている「非常に支持されている商品である」という点を新しいUSPにすることにしました。すると「マイクロニードルは知っているけれどまだ使っていなかった人たち」に買ってもらうことができた、つまり、ターゲットとUSPをちょっとシフトしたら再ヒットさせることができたというわけです。
——「行き詰まったらいったん上流に戻って考え直す」ことを徹底した結果ということですね。
まさにそうです。「コンセプト」をどうやって作るかというコンセプトワークのやり方も最初にしっかり体系的に学んだ上で実践に移ります。ここは、D-CAMのカリキュラムで勉強できることに近いかもしれませんね。
また実践では、実際の広告のクリエイティブを作って、現場の第一線で活躍している社内のメンバーが直接フィードバックするという形をとっています。最初の段階でしっかり教育カリキュラムを組んでやっているので、そこで学んだことをきちんと最初にインプットすることで、組織全体として共通の概念を持ってやるということが徹底されていますね。
研修で体系的にマーケティングを学び実践することで作られる、共通概念をしっかり持った強い組織
——教育カリキュラムは、全て社内の関係者で作られているのですか?
はい、社内に研修カリキュラムを作る専任の担当者がいて、現場の一線で活躍するマーケターの意見を取り入れながら常にアップデートしています。現場でやることが変われば、教えなくてはいけないことも変わってきますから、現場とカリキュラムを作る側がしっかり連動しながらブラッシュアップしていきます。
またワーク形式の研修も多いのですが、社長の木下1(*)が研修に加わることもありますよ。
- (株)北の達人コーポレーション代表取締役社長の木下勝寿氏。マーケティング理論や仕事術、組織論など、多くのベストセラー入り著作を生み出している、日本を代表するトップマーケターの一人。 ↩︎
——木下社長から直接教われるというのは貴重ですね!
そうですね。組織全体として共通の概念を持ってやるためのこういうシステムを確立していくことが、やはり会社としての差別化に繋がっていると思いますし、1人勝ちできる状態を作れるのだと思います。
——高橋さんが今まで最も影響を受けたマーケターは、やはり木下社長ですか?
木下の影響は本当に大きいです。実際に、木下には直接0から教えてもらいました。ちなみにそこで学んだことは木下の著書「ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング ― Webマーケティングの成果を最大化する83の方法」にほぼ全て書かれていますので、是非を読んでいただきたいなと(笑)。
「この本の会社で働きたい」ということで採用面接に来てくださる方がいるぐらい、「ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング~」は、今では業界で高く支持していただいていると思うのですが、元々は社内研修用の教科書として作られたんです。著書の中で、マーケティングの基本がしっかり体系的に説明されているので、新しく入社するメンバーにとってはすごく学びやすいんですよね。
高橋氏が語る「上流工程」の重要性が印象的だった前編。続く後編では、そんな上流工程を重視する同社ならではの人材育成方法や、マーケターとして必要な資質について詳しく伺います。
株式会社 北の達人コーポレーション
- HP:https://www.kitanotatsujin.com/
- 美容マイクロニードルパッチの「ヒアロディープパッチ」や、便秘の改善を助ける「カイテキオリゴ」などの人気商品を取り扱う自社ブランド「北の快適工房」を中心としたD2C事業を展開。