DemandSphere カントリーマネージャー 室屋氏が語る「数字だけではない」マーケティングの本質とは

DemandSphere(ディマンドスフィア)は、SEOモニタリングツール「DemandMetrics」や検索ビッグデータ「SERP Intelligence」、AIコンテンツ作成支援サービス「ProsVector」を提供する、検索マーケティングのテクノロジーカンパニー。今回は、同社にて日本のカントリーマネージャーを務める室屋武尊氏が、マーケティングにおける理系・文系思考のバランスの重要性や、効率的なAIの活用方法など、今とこれからのマーケティングの本質に迫りながらお話を伺いました。

目次

偶然のマーケティングとの出会いと、紆余曲折の中でやめなかった継続的な学び

―室屋さんのこれまでのキャリアについてお聞かせください。

僕のキャリアについて聞いても、あまり面白くないですよ(笑)。20代の頃は、自分が何を本当にやりたいのか分からず、まるで迷子のような日々を過ごしていました。

―「自分が何をしたいのか分からない」という時期があるのは、むしろ多くの人が共感できる気がします。室屋さんの20代の頃のことをもう少し詳しく教えていただけますか?

2011年に大学を卒業しましたが、2年生のときにはリーマンショックがあって、4年生のときには東日本大震災がありました。卒業式が中止になった世代です。大企業神話が崩壊して、安定なんてないんだと思い知らされました。それで、自分が何をやりたいのかわからなくなってしまって。

―マーケティングの仕事に興味があったのですか。

最初は少し営業をやって、次にウェブ担当者になりました。マーケティングを本格的に学んだのは20代後半からです。いつの間にかマーケティングという仕事に取り組むようになって、今に至っているのですが、「マーケティングがやりたくてこの世界に入った」とか「マーケティングの仕事が楽しかった」というわけではないです。

―気付いたらマーケティングの仕事に就いていた、というのは結構多いパターンかもしれません。さて、偶然飛び込んだマーケティングのお仕事ということですが、これまで何か意識して取り組んできたことはありますか?

「学び続けること」は常に意識してきました。社会人になってから、プログラミングや英語などを学びました。でも意識が高いわけではなくて、不安で、もがいていただけなんです。就職してもうまくいかず、転職を繰り返していた時期もありました。ただ、知識を増やすことで新しい道が開けるということだけは信じていたんです。

ラグジュアリーブランドでの経験から学んだマーケティングの特殊性

—不安でもがいていたということですが、ファーフェッチやLVMHといったラグジュアリー領域でマーケティングを牽引されていたそうですね。そうした企業ではどのような取り組みをするのでしょうか?

高級ブランドのマーケティングでは、多くの人に注目されることよりも、一人ひとりのお客様と真摯に向き合う姿勢が求められます。この業界のマーケターは、顧客の名前や好みを自然に覚えてしまうことも珍しくありません。「顧客理解」の追求のレベルが違うんです。


デジタルマーケターの中には、デプス調査(対面インタビュー)をやったことがない人も多いようですが、僕はそこに違和感を覚えます。Google Analytics だけでは顧客を理解できません。高級品のマーケティングでは、お客様のお宅を訪問させていただいたり、イベントを通じて一緒に時間を過ごしたりすることもあります。それくらいやらないと、顧客理解はできない。

—アプローチが全く違うのですね。

そうですね、メジャーなデジタルマーケティングのアプローチは、数字に偏りすぎているように感じます。もう少し文系的な要素に目を向けてもいいんじゃないかな。というのも、マーケティングで扱われる指標の多くは、解釈の余地があるものばかりだからです。例えば、「ページビュー」はツールによって計測方法が違いますよね。「市場浸透率」などの指標は、計算方法によって変わります。そもそも、あらゆる指標の基礎となる TAM(Total Available Market/最大想定市場規模)は、粗い推計で算出されます。マーケティングに関する数字の多くは、絶対的な尺度ではない。いかようにも解釈できるものを根拠として、ロジックを組み立てているんですね。

だからこそ、現場で得た感覚やセンスを取り入れて、よりクリアな実態を見出す必要があります。確率論を極めたマーケターほど、現場や体験を重視するのは、それによって数理モデルを磨き込むためです。文系的フィールドワークをやると、細かい変数がブラッシュアップされて、理系的モデルが強化されるのです。

現場主義であること、理系・文系両輪のアプローチの重要性について

—理系と文系、両方の視点を大事にできるのが、室屋さんが考える「優秀なマーケッター」ということでしょうか?

文系・理系という視点に加えて、現場で感性を磨いた人は間違いなく優秀だと思います。そういう方々は、感度の高いセンサーをたくさん持っています。ブランドの責任者をされるような方は「この数字おかしい」と直感的に気づくことが多いんです。いつも驚かされます。

例えば「検索ボリューム」のような値はGoogleから供給されるもので、そのまま信じて使うことが多い。でもブランドの人たちはすぐに異常に気づきます。調べてみると、似た言葉が混同されていて、誤った検索ボリュームが出力されていたことがありました。

問題が発覚して、検索ボリュームを補正してモデルを組み直すことになったのですが、あらゆるツールが当てにならない。大量のデータを使いつつも、最後に信じられるのは感性だけ。「本質」というのは、こういう極限状態のときに見えてくるわけですけど、やはり現場で磨いた感性が、物を言うんですね。

AI時代の到来で、今・これからのマーケターに求められるスキル

—マーケターを目指している方や、キャリアに不安を感じているマーケターの方々が、強化したほうが良いと室屋さんが考えるスキルはありますか?

スキルというよりも、常に学び続けることを大切にしてほしいです。今後は AIを「使いこなせる人間」になることが重要だと言われていますよね。そのためには、幅広い知識が必要。すでに AI はマーケティングに欠かせない存在になっていて、回帰分析や主成分分析などの専門的タスクが実行できます。ですが、そもそも使い手が回帰分析を知らないといけない。データセットを整えたり、出力結果を読み解くのも人間の仕事です。

もちろん感性も大切。AIの分析結果に疑問を持てる感性が必要です。ちょっとおかしくない?少し変数を調整してみよう、などと AI と会話しながら仕事を推進できるマーケターは今後ますます活躍するでしょう。AI に指示を出せないとか、AI の言いなりになってしまうのは危険です。

僕はかなり AI に依存しています。引っ越しで忙しかったときには、音声入力だけで 300枚くらい資料を作ってくれて本当に助かった。もう昔の働き方には戻れないです。用途別に複数のAIを使い分けていて、英語の学習用と翻訳用で使い分けていますし、業務に関してもリサーチ用、グラフ作成用など、全部で10種類くらいのエージェントを使っています。

―すごい!高度にAIを使いこなしていらっしゃいますね。さて最後になりますが、マーケティング初心者の人たちへアドバイスをいただけないでしょうか?

今回は、文系・理系の両輪、現場感覚のことなどをお話ししました。でも全部独学するのは難しい。できれば、良い師匠や先輩を見つけてください。僕の場合、転職するたびに素晴らしい上司に出会うことができ、多くを学びました。迷子だった20代も、今思えば大切な時間だったかもしれない。

スクールでは知識やテクニックを学べますが、人との繋がりや現場から学べることに本質があると思います。D-CAMに参加される方は、ぜひ座学に加えて、師匠や仲間を見つけて、フィールドワークに挑戦することをお薦めしたいです。

DemandMarkets株式会社 / DemandSphere株式会社

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この記事を書いた人

D's Marketing Boot Campの管理人です。
未経験から日本の最前線で戦えるマーケターを育成しています。
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