マーケティング業界で注目を集めるピアラ株式会社は、ビューティ&ヘルスおよび食品領域のEC事業者を対象に、成果報酬型のマーケティング支援を展開しています。越境ECのトータルサポートも手掛けており、11期連続で増収を記録。そして2018年には東証マザーズへの上場も果たしました。今回はD-CAM運営事務局責任者の多田が、同社のコンサルティング本部執行役員の宮尾氏にお話を伺い、マーケティングの本質や若手マーケターへのアドバイスについて語っていただきました。
介護士からマーケターへの転身、多彩なキャリアから生まれた独自の視点
——まず、宮尾さんのキャリアについてお聞かせいただけますか?
私は元々、介護士からキャリアをスタートさせました。当時、介護士の仕事はすごく楽しかったんですよ。そこから紆余曲折、キャリアに関して思い悩むこともあり、リクルート→商社を経て現在に至ります。
振り返ると、特にリクルートでの経験が自分の人生に大きく影響しているなと思います。営業スキルとコミュニケーション能力は、リクルートでの経験で身に付いたと言っても過言ではないですね。
——その辺りをもう少し詳しく伺えますか?
リクルートではホットペッパーの広告営業をしていました。在籍中の3年間、毎朝欠かさず1時間のロールプレイングをしていたのですが、おかげで話し方や表現力が大きく改善し、苦手意識が克服されたんです。毎朝のロールプレイングと日々の飛び込み営業が、私にとっての訓練の場となっていったんですね。この経験から私は「人生はなんとかなる」という自信を得たと思っています。
——リクルートを経て、現在のピアラに入社されたきっかけは何だったのでしょう?
リクルートでの業務は基本的に広告営業でしたが、自分で広告用の素材の撮影をしたり、コピーを作ったりする機会があったんです。ライターの方々が良いコピーを見つけるためによくされているように、メモ帳を持ち歩いて、目に留まった良いコピーをメモするようにしていました。
そうしているうちに「広告って面白いな」と感じるようになっていったんですよ。ただ、ホットペッパーは紙媒体でしたから、時代の流れを考えるとこれからはウェブが主流になるだろうなと。そこからはWeb媒体の広告営業も経験しましたし、バックオフィス業務もやりましたね。そして最終的に、30歳になるタイミングで、大手企業かベンチャー企業のどちらに転職するかで迷い、当時はベンチャーだったピアラに転職を決めました。
マーケティングの醍醐味は、仮説と検証のサイクル
——現在、ピアラで担当されているマーケティングのお仕事で、1番面白いと感じる点はどこですか?
そうですね、マーケティングの面白さは「自ら考え立てた戦略通りに結果が出た時」だと思います。ただ、うまくいかなかった時も「なぜうまくいかなかったのだろう?」と考えることでもかなり学びがあると感じます。
私自身は執行役員という立場上、どうしても事業視点で見ることが多いのですが、結局のところ、マーケティングも事業も人を動かして対価としてお金を得る行為です。消費者の心をどう揺り動かすか、どういったアプローチが効果的かをしっかり悩み考えることが重要だなと感じています。そこには心理学に近いものがあるかもしれませんね。
人間理解がマーケティングの基礎、介護の経験が教えてくれたこと
——これまでの経験を積み重ねてこられたご自身のキャリアの中で、特にマーケティングの知識や経験が活きていると感じられたエピソードがあれば、ぜひお聞かせいただけますか。
私の場合は、介護の経験がマーケティングに1番生きている気がしています。介護士として様々な背景を持つ方々と接する中で、人の心理や行動を理解することの重要性をすごく学んだと思っているのですが、これはマーケティングの本質に通じると考えています。
介護士時代は、政治家の方や大使館関係者、音楽家など、様々なバックボーンを持つ方々のケアを担当していたのですが、そこでは、彼らの人生の成功談や失敗談、悩みなどを聞く機会が非常に多かったんです。彼が(または彼女が)それぞれの人生でこういう経験をしたというバックボーンが基礎となっていて、ある経験をした人は、こういう時にこういう風に判断するんだ、こう感じるんだ、というのを学べたのが今も生きていますし、私のマネジメントの原型でもあるなと思っています。
ハード面とソフト面のどちらも理解できている、それがきっと優秀なマーケター
——宮尾さんの考える「優秀なマーケター」とは何ですか?
難しい質問ですね(笑)。フレームワーク(ハード面)とコミュニケーション(ソフト面)のどちらかを突き詰めるか、もしくはその両方を理解しているか。恐らくこの2つのパターンのいずれかが優秀な人なのではないでしょうか。
他には、マーケティングの上流工程と下流工程の両方を経験することも重要ですよね。これで全体的な視点と個別のアプローチの両方が身につきます。
例えば、上流工程だけを見ていると、市場分析や競合優位性など大きな視点での思考になりがちですが、下流だけだとどの広告枠に出稿するかなど、小手先の対応になってしまいますよね。両方の経験があることで、全体的な戦略と個別のタクティクスのバランスが取れるようになると思います。
ユーザーの心理を深掘りする姿勢こそ、新のマーケター
——宮尾さんが仕事を進める上で大切にされていることはなんですか?
自分が担当をしているクライアント企業の過去の実績や成功・失敗の理由を深掘りすること、そして何よりそれを継続していくことを心がけています。
例えばある食事サービスのプロモーション相談では、なぜYouTuberの広告が成功したのかを詳しくヒアリングしました。その結果、商品スペックよりも第三者の反応が消費者の心を動かしていることに気づくことが出来たのですが、改めてユーザーの心理や反応に注目することが重要だなと感じたんです。
その食事サービスの場合は、YouTuberの「これ、結構美味しい」と言う素直な反応が重要で、それが視聴者の心を動かしていたんですね。このようなインサイトを見逃さず、クリエイティブに反映させることが成功につながると思います。
マーケティングは、実務と理論のバランス
——マーケティングを学ぶ上で、どのような方法が効果的だと思われますか?
理論は勿論大事です。ただ私自身は、実務経験からの学びを重視していて、さらに歴史や心理学からも学ぶことが多くあるなと感じているんです。
例えば、西洋の歴史やパソコンの発展史、言語の成り立ちなどを見ていくと、その時代の経済の流れや人々の生活スタイル、価値観の基準が見えてきますよね。そこから、当時を連想していくと、どのようなプロモーションや広告が人を動かしたのかを考察できるんです。
心理学者の理論も参考になりますね。フロイトの精神分析理論や、詐欺師のテクニック、マジックのミスディレクションなど、人の心理や行動を理解する上で役立つ知識がたくさんあります。
———最後に、マーケティング業界を目指す人にメッセージをお願いできますか?
マーケティングは結局のところ「人間理解」に尽きるのではないかと思っています。だからこそ多様な経験を積むこと、そして自分の興味のあることにどんどん取り組んで、自分なりに消化していくことが重要です。そうすることで、独自の視点や強みも生まれてくると思っています。
また、世の中の変化の流れをキャッチアップし、新しい技術・トレンドにはアンテナを張っておくことも大事ですよね。常に好奇心を持ち続け、新しい技術やトレンドにアンテナを張り、自分なりに解釈して活用する力を磨くことをお勧めします。