マーケティングでは、自社や商品を取り巻く外部環境を的確に分析し、機会とリスクを見極めることが成功の鍵となります。そこで注目されているのが「PEST分析」です。この手法を使えば、政治的、経済的、社会的、技術的の4つの観点から外部環境を多角的に分析できます。
マーケティングにおけるPEST分析の役割と目的
PEST分析は、政治的(Political)、経済的(Economic)、社会的(Social)、技術的(Technological)の4つの観点から企業を取り巻く外部環境を多角的に分析する手法です。
- 1.市場の変化の的確な把握
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経済的要因の分析から新興国の中間所得層拡大などの変化を読み取れば、新製品投入の指針となります。社会的要因を通じて環境意識の高まりを捉えれば、環境配慮型商品の必要性が見えてきます。このようにPEST分析は市場の新たなニーズやトレンドを見逃さず捉える重要な役割があります。
- 2.事業リスクの先回り予測と対策立案
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政治的要因の分析で規制強化リスクを事前に察知できれば対応策を立てられます。技術的要因を先読みすれば、新技術の浸透による既存事業の陳腐化リスクへの備えができます。リスクを予測し、対策を立案することがPEST分析の大きな役割です。
- 3.競合優位性の源泉の見極め
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ライバル企業がPEST分析を怠っていれば、自社が確実に実施することで競争優位につながる可能性があります。環境変化を先手で捉え、機会とリスクへの備えを万全にすることが優位性の源泉となります。
- 4.的確な戦略立案の前提
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徹底した外部環境分析を経て、マーケターは市場機会の発掘とリスク回避の両立ができます。PEST分析は、スピーディーかつ的確な戦略立案を可能にする前提プロセスとなります。
以上のように、PEST分析はマーケティング戦略の土台作りにおいて極めて重要な役割と目的を担っているのです。
PESTのやり方
PEST分析の4つの項目と、そこから何を読み取るのかを具体的に見ていきましょう。
- 1. 政治的要因(Political)の分析
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政府の政策や法規制、政治的安定性などを分析します。新政権の政策や規制が製品・サービスに影響を及ぼす可能性があります。
- 2. 経済的要因(Economic)の分析
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景気動向、為替レート、税制、雇用環境などの経済指標を分析します。景気後退では消費が慎重になり、所得水準の変化は購買力に影響します。
- 3. 社会的要因(Social)の分析
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人口動態、ライフスタイル、価値観の変化などを分析します。少子高齢化は市場縮小を意味し、健康志向の高まりは新商品の需要につながります。
- 4. 技術的要因(Technological)の分析
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新技術の発達、研究開発の動向、技術革新のスピードなどを分析します。AI/IoTなどの新技術の普及は業界の競争環境に大きな変化をもたらします。
PEST分析を行うことで、マーケターは市場の変化を的確に捉え、事業リスクを先回りして予測できます。ライバル企業が手薄な外部環境分析では競合に遅れを取るリスクがあるのに対し、自社がPEST分析を確実に実施すれば競争優位の源泉となり得ます。徹底した外部環境分析は的確な戦略立案の前提となるのです。
PEST分析の事例
PEST分析でどのような点に着目し、具体的にどう分析を進めていけばよいのか、その実践的なイメージを掴むのは必ずしも簡単ではありません。
2つの業界を例に、PEST分析のポイントを具体的に解説してみます。
アパレル業界
- 政治的要因:新興国の輸入規制、先進国の保護貿易主義
- 経済的要因:新興国の所得層拡大による市場成長、為替変動
- 社会的要因:サステナブルファッション志向、倫理的消費の広がり
- 技術的要因:デジタルマーケティング手法の進化、製造のロボット化
外食業界
- 政治的要因:食品衛生法改正、インバウンド需要動向
- 経済的要因:物価上昇と実質所得の伸び悩み、為替変動
- 社会的要因:健康志向の高まり、デリバリーサービス利用拡大
- 技術的要因:AI/IoTによる店舗効率化、デジタルオーダーシステム
このようにPEST分析では、政治、経済、社会、技術の側面から外部環境を多角的に分析します。業界・業種ごとに影響する要因は異なりますが、PEST分析を行うことで、重要な機会とリスクを見落とすことなく捉えられます。
PEST分析を戦略策定に活かすことで得られる主なメリット
PEST分析の結果を具体的に活用し、戦略策定に生かすことが重要です。まずは影響度が大きい重要な要因を選別する必要があります。例えば技術的要因でAI技術の発達が業界に大きな脅威をもたらすと分析された場合、AIを活用した新サービスの開発やAIによる業務プロセスの自動化・効率化を図ることが対策の選択肢になるでしょう。
経済的要因で所得水準の上昇が見られれば、プレミアム商品の投入や高付加価値サービスの提供を検討するなど、需要喚起策を立案することになります。社会的要因で健康志向の高まりを捉えた場合は、商品のリニューアルやヘルスケア関連の新規事業を視野に入れるべきです。
このようにPEST分析の結果を具体的に活かすことで、自社が取るべき戦略的行動が見えてきます。PEST分析を戦略策定に活用することで得られる主なメリットは以下の通りです。
- ・事業機会とリスクを包括的に把握できる
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PEST分析では4つの観点から外部環境を多面的に分析するため、事業に影響を与える機会とリスクを見落とすことなく包括的に捉えられます。例えば、政治的要因の分析で新興国の輸入規制リスクを確認でき、技術的要因の分析から新技術の普及による新規事業機会を発見できるでしょう。
- ・環境変化への機動的な対応が可能
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環境変化への機動的な対応が可能 PEST分析を通じて環境変化の本質を正しく理解できれば、政治、経済、社会、技術の各側面から素早く的確な対策を講じることができます。例えば、経済的要因の分析で景気後退が見込まれた場合、コスト削減や販売促進策などの対応を機動的に実行できます。
- ・競争優位の源泉を特定しやすい
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顕在化した社会的ニーズ、技術動向、法令変更などを自社の強みと組み合わせることで、新たな競争力の源泉を見出せる可能性があります。例えば、社会的要因で倫理的消費の広がりを捉え、環境配慮型の製品開発力を武器に新市場を開拓できるかもしれません。
- ・中長期の戦略立案が容易になる
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中長期の戦略立案が容易になる 現状分析だけでなく、PEST分析を行えば将来の環境変化までを4つの側面から予測できるため、中長期的な事業戦略の策定が容易になります。例えば技術的要因の分析から5年後のAI浸透を見据え、AIビジネスへの参入計画を立てられます。
まとめ
PEST分析は、マーケターが直面する複雑な外部環境をきちんと理解し、的確な戦略を策定するための手法で、政治・経済・社会・技術の4つの側面から環境を徹底分析することで、事業に影響を与える重要な要因を見落とすことなく捉えられます。
この手法を活用することで、環境変化に迅速かつ柔軟に対応できるだけでなく、新たなビジネスチャンスを発見することも可能です。マーケターにはPEST分析を実践し、戦略の土台として活用することが強く求められています。